光励起および超音波励起による非破壊検査の測定事例 The measurement results of Non-destructive test by light excitation and ultrasonic excitation.

株式会社 ケン・オートメーション 〇矢尾板達也 / edevis GmbH Alexander Dillenz Ken Automation, Inc. Tatsuya Yaoita / edevis GmbH Alexander Dillenz

キーワード:サーモグラフィ、ロックイン、光励起、超音波励起

概要
光励起および超音波励起による非破壊検査法は測定対象物中にある密度バラツキ、内部剥離、欠陥、亀裂を高性能な赤外線カメラによって検出する手法である。更に、ロックイン・サーモグラフィを組み合わせることで、より高分解能となり、測定対象物の表面から深い処にある欠陥を導くことができる。
ここでは、ロックイン・サーモグラフィを使用した、光励起および超音波励起による非破壊検査の測定事例を述べる。

緒言

本研究は、高性能赤外線カメラを使用して測定対象物内にある密度バラツキ、内部剥離、欠陥、亀裂を、測定対象物から外的な励起(光、超音波、渦電流、電流、熱弾性、等)によって発生する温度変化を撮影することによって行われる非破壊検査手法に関して述べる。更に、一定サイクルで励起させるロックイン・サーモグラフィを組み合わせることで、より高分解能となり、測定対象物の表面から深い処にある欠陥を導くことができる。また、ロックイン周波数を変化させることで、測定対象物表面に伝わる測定対象物の熱伝導のサイクルが変化し、測定対象物表面からの深さ方向に関する情報を得ることができる。

ここでは、ロックイン・サーモグラフィを使用した、光励起および超音波励起による非破壊検査の測定事例を述べる。

赤外線サーモグラフィ

最新の赤外線カメラ技術である2次元フォーカル・プレーン・アレイの赤外線検知素子を採用している。(図1)320X256画素または640X512画素、観測波長域MWIRの赤外線検知素子(InSb)は、ステアリング・クーラー電子冷却器で冷却されており、1枚の赤外線画像における測定温度分解能(NETD)は25℃において0.02℃と、現在市販されている赤外線カメラとしてはトップレベルの温度分解能を有している。

一画素あたりの空間分解能は、空間分解能視野角によって規定されるので、大きな測定対象物や微細領域を測定する際には、より高画素の赤外線カメラ640X512画素が必要とされる。

赤外線応力測定では更に高い温度分解能が必要とされ、約2,000枚の画像を積算すると、温度分解能は0.001℃以上となる。

繰返し加重が掛けられた測定対象物試験片の温度変動は、ロックイン方式(図2)とよばれる任意に設定した一定間隔のフレームレートに基づいて赤外線画像の取込みと演算を連続的に実施し、刻々と変動する温度変動量から最大温度差⊿Tを計算した画像を作成する。

図1 赤外線カメラ
図1 赤外線カメラ
図2 ロックイン方式
図2 ロックイン方式

光励起ロックイン・サーモグラフィ

図3に示すような構成により、光励起ロックイン・サーモグラフィによる測定が行われる。光励起手法には、パルス・サーモグラフィとロックイン・サーモグラフィの2種類の手法がある。

パルス・サーモグラフィは図4のような温度変化および時間的な位相遅れを示し、測定対象物を瞬間的に光によって励起し、測定対象物の温度が下がっていく過程で、測定対象物の健全部と欠陥箇所に発生する温度変化量および時間的な位相遅れを画像化する手法である。パルス・サーモグラフィは測定対象物表面近傍の欠陥や熱伝導係数の高い材料等の瞬間的な過渡現象を捉える測定に向いている。

ロックイン・サーモグラフィは図5に示すように、繰り返し点灯されるランプ等によって励起された測定対象物は、測定対象物の健全箇所と欠陥個所では光励起によって発生する温度変化に温度変化や時間的な位相遅れが生じ、この温度変化量と位相遅れを画像化する手法である。ロックイン・サーモグラフィは一定の周波数で繰り返し掛かる温度変化や位相遅れを画像化する方法であり、一回の温度変化では測定に含まれるノイズ成分の中に埋もれてしまうような小さな欠陥信号を、ロックイン方式で同じ温度変化を繰り返し掛けることにより、ノイズ成分を低減して、小さな欠陥信号を検出させることができる。

図3 光励起ロックイン・サーモグラフィ
図3 光励起ロックイン・サーモグラフィ
図4 パルス・サーモグラフィ
図4 パルス・サーモグラフィ
図5ロックイン・サーモグラフィ
図5 ロックイン・サーモグラフィ

光励起ロックイン・サーモグラフィの測定事例

図6に光励起ロックイン・サーモグラフィを使用して、欠陥の測定を行った結果を示す。光励起ロックイン・サ ーモグラフィでは、複合材中の内部欠陥や剥離箇所を検出している。

図7に欠陥位置の異なる複合材の平板の測定事例を示す。光励起させるロックイン周波数を変え0.5Hzの高周波数長では測定対象物表面近傍だけしか温度変化が発生せず、測定対象物の表面に近い欠陥だけが検出されるのに対して、0.06Hzの低い周波数では測定対象物の深いところも温度変化が生じ、深いところにある欠陥も検出されている。このように、光励起ロックイン・サーモグラフィでは、励起させる周波数を変化させることで、測定対象物表面から欠陥まで、および欠陥個所から測定対象物表面までの熱の伝播する温度変化や位相の遅れを評価することで欠陥の深さ状況を推量することができる。

図6複合材の自動車ボディの欠陥
図6 複合材の自動車ボディの欠陥
図7周波数と欠陥深さの相関
図7 周波数と欠陥深さの相関

超音波励起サーモグラフィ

図8に超音波サーモグラフィの概要を示す。測定対象物は超音波振動子によって励起され、測定対象物内部にある亀裂またはクラックが内部摩擦またはヒステリシスで発熱する状態を高性能赤外線カメラで測定する。

光励起サーモグラフィでは、暖められた測定対象物表面から欠陥まで熱が伝播し、更に欠陥からの温度変化が測定対象物の表面まで伝播する際の温度変化を捉えるのに対して、超音波励起サーモグラフィは欠陥から測定対象物表面までの温度変化を捉えるので、光励起サーモグラフィの半分の工程で済み、超音波励起サーモグラフィは、より深い箇所の欠陥の検出が可能である。

図8超音波励起サーモグラフィ
図8 超音波励起サーモグラフィ

超音波励起サーモグラフィの測定事例

図9にリベットの留めされた箇所を超音波励起によるサーモグラフィで測定した。リベットが完全に一体化された左側の画像では、超音波励起による発熱は測定されないが、リベットに隙間のある右側の画像で超音波励起による発熱が測定されている。

図10にエンジンバルブ・シートリングを挿入した際の勘合状態の測定事例を示す。超音波励起によりシートリングに隙間があると内部で摩擦が発生し、発熱を引き起こす。この状態が赤外線カメラで測定される。

図9リベット留めの超音波励起サーモグラフィ
図9 リベット留めの超音波励起サーモグラフィ
図 10 超音波サーモグラフィにバルブシートリング
図10 超音波サーモグラフィにバルブシートリング

まとめ

測定対象物に光励起または超音波励起を掛けることで、測定対象物内の欠陥や剥離状態を検出することができる。高性能な赤外線カメラは、非常に小さな温度変化を捉えることができ、更にロックイン・サーモグラフィと組み合わせることで、S/Nの改善が可能となっている。画像処理により、欠陥部と健全部を二値化することで、自動判別が可能な検査装置としても適応できる。