赤外線カメラによる測定事例と応力測定

株式会社 ケン・オートメーション 矢尾板達也

赤外線カメラ

最新の赤外線カメラ技術である2次元のInSb、MCTおよびQWIPフォーカル・プレーンアレイの赤外線検知素子を採用しているカメラには、76,000画素(320X240画素, JADE)と310,000画素(640X480画素, EMERALD)のタイプがある(図1)。赤外線検知素子はステアリングクーラー電子冷却器で冷却されており、1枚の赤外線画像における測定温度分解能(NETD)は30℃において、MWIR(3~5μmの観測波長域)では0.020℃(JADE)と0.025℃(EMERALD)と、現在市販されている赤外線カメラとしてはトップレベルの温度分解能を有している。JADEのカメラではロックイン方式(図2)とよばれる任意に設定した一定間隔のフレームレートに基づいて赤外線画像の取込みと演算を連続的に実施し、刻々と変化する温度変化量から平均化した画像を作成することが可能である。10,000枚の画像を200秒で積算すると、温度分解能は0.0001℃以上となる。

ここではこれらの赤外線カメラを使用した、最新の測定時例について述べる。

図 1 赤外線カメラ JADE、 EMERALD
図1 赤外線カメラ JADE、 EMERALD
図 2 ロックイン方式の概要
図2 ロックイン方式の概要

EMERALD赤外線カメラ

このレベルの赤外線カメラの輸入に際してはフランス政府が発行する輸出許可が必要とされる。温度分解能0.025℃(MWIR)でこの画格は、望遠レンズと組み合わせて遠い被写体を観測するのに有効である。図3に示されるように44mmレンズから拡大した440mmレンズでは赤外線カメラ画像とは思えないような、500mほど先の街路灯を詳細に映している。カメラの出力としては14bitsのデジタル画像と、NTSCのアナログ画像が同時に行われる。

図 3 EMERALD 赤外線カメラ温度画像 左 44mm、右 440 mmレンズ
左 44mm、右 440 mmレンズ
図3 EMERALD 赤外線カメラ温度画像

構造物の測定

赤外線カメラのデジタル画像をPCに取り込み、図4に鉄橋を通過する貨物列車の赤外線画像と、鉄橋における温度変化を図5に示す。図5の縦軸は温度で横軸は経過時間を示している。このことから判るのは貨物列車の先頭車両が鉄橋に掛かった時に圧縮荷重により温度上昇がみられ、貨物列車が通過することで引張荷重による温度低下がみられる。この経過時間に沿った温度の高い箇所の画像から温度の画像同士の引き算を行い温度差の画像を作成すると、図6に示されるように鉄橋の鋼材に沿った温度変化が示される。

同様に、12m高さの街路灯の温度変化を図7, 8に示す。街路灯は風や通過する自動車によってある一定の固有振動をもって揺れており、適切な設計条件が保たれなければ応力集中によって破断に至る。図9ではロックイン方式による観測を行い、街路灯の温度変化から測定された赤外線応力画像を示している。下部にある補修用のボックス周りの溶接部、地面との接地面において応力が集中していることが判る。

図4 鉄橋を通過する貨物列車の赤外線温度画像
図4 鉄橋を通過する貨物列車の赤外線温度画像
図5 鉄橋を通過する貨物列車によって発生 する鉄橋の温度変化 縦軸:温度(℃)横軸:経過時間(秒)
図5 鉄橋を通過する貨物列車によって発生する鉄橋の温度変化
縦軸:温度(℃)横軸:経過時間(秒)
図6 鉄橋を通過する貨物列車によって引き 起こされた赤外線温度差の画像
図6 鉄橋を通過する貨物列車によって引き起こされた赤外線温度差の画像
図7 街路灯の赤外線温度画像
図7 街路灯の赤外線温度画像
図8 揺れる街路灯によって発生する温度変化 縦軸:温度(℃)横軸:経過時間(秒)
図8 揺れる街路灯によって発生する温度変化
縦軸:温度(℃)横軸:経過時間(秒)
図 9 街路灯の赤外線応力画像
図9 街路灯の赤外線応力画像

生体観察

サーモグラフィの代表的な用途として生体の温度観測がある。しかしながら現在主流の生体用赤外線カメラの温度分解能は0.1-0.05℃と低い。そこで更なる温度分解能の向上とロックイン方式による観測を行うと、心臓の鼓動に応じた体表面の温度変化画像を測定することが可能となる。ここでは、心拍数72回(1.2Hz)としてロックイン方式で赤外線温度差画像を撮影した。図10に人体表面の赤外線温度画像、図11にロックイン方式による赤外線温度差画像を示す。

図 10 人体表面の赤外線温度画像
図10 人体表面の赤外線温度画像
図 11 ロックイン方式による人体表面の赤外線温度差画像
図11 ロックイン方式による人体表面の赤外線温度差画像

赤外線応力画像と散逸エネルギー測定画像

JADEカメラとロックイン方式による観測では、試験片に繰返し掛かる荷重に伴って生じる熱弾性効果により赤外線応力画像が解析される。赤外線カメラで捉えられる温度変化量は主応力と比例関係にあり、赤外線カメラで捉えられた温度変化量(⊿T)に各材料の熱弾性係数(K)を掛けることで応力値(MPa)として変換される。(図12)赤外線応力画像における主応力和(⊿σ)は、以下の計算式によって求められる。

⊿T=-K ・ T ・ ⊿σ・・・・式(1)

⊿T : 温度変化量

: 熱弾性係数

T : 絶対温度

σ : 主応力の和

しかしながら、この式が成立するのは熱弾性効果による発熱が試験片内部に蓄積される断熱効果と、試験片表面からの放熱のバランスが一定に保たれ、風などの外乱要因が発生しない場合に限定される。多くの場合は、繰返し掛かる荷重に伴う熱弾性効果による断熱効果のほうが試験片表面からの放熱よりも大きく、試験片自体は次第に暖められることとなる。従って、図13に示される試験片の温度上昇を伴わない直線的な温度の上昇・下降〔式(1)〕だけではなく、熱弾性効果による温度の上昇・下降の繰返し,試験片の機械的現象に基づく散逸エネルギーの温度上昇,風などの外的温度変化,熱伝導をも考慮しなければならない。図13に示される温度上昇を伴う曲線的な温度の上昇・下降を含んだ〔式(2)〕が実用的な温度変化を表している。

図 12 自動車部品の赤外線応力画像(MPa)
図12 自動車部品の赤外線応力画像(MPa)
図 13 引張・圧縮による試験片の温度変化 縦軸:温度 (℃)、横軸:経過時間 (S)
図13 引張・圧縮による試験片の温度変化 縦軸:温度 (℃)、横軸:経過時間 (S)

⊿T= re-T +D+Te・・・・・・式(2)

⊿T : 温度変化量

e : 外的要因(風や周囲の温度変化)

: 熱の伝導(温度の高い箇所と低い箇所が均一化を図る働き)

D : 散逸エネルギー(繰返しサイクルにおける温度上昇量)

e : 熱弾性効果

ロックイン方式による赤外線応力画像の測定は、試験機からの同期入力信号に基づいて試験片の熱弾性効果による温度変化だけを測定することができ、外的要因による温度変化を排除している。

応力測定と同様の手法で、応力測定に必要な熱弾性効果による温度上昇・下降から、更に小さな繰返しサイクル毎の機械的現象に基づく散逸エネルギーの温度上昇量を分離して測定すると、繰返しサイクルにおける温度上昇量(D)の散逸エネルギー測定画像が描かれる。(図14)

図 14 自動車部品の散逸エネルギー画像 (℃)
図14 自動車部品の散逸エネルギー画像(℃)

散逸エネルギーによる温度上昇は破壊に至る過程の試験片表面に発生する内部摩擦,ヒステリシスによるものである。同じ試験片の赤外線応力画像(図12)では左下から右上にかけて応力が均一に掛かっている状態が示されている。散逸エネルギー測定画像(図14)では同じ繰返し荷重でありながら一箇所に集中した発熱状態がみられる。この箇所が周囲に比べて機械的に大きく発熱して散逸エネルギーの高いところであり、ここから疲労限度に達しやがて破断に至ると予測される箇所である。散逸エネルギーの発熱は、応力の大きさまたは荷重,試験片の形状,繰返し周波数によって異なり、機械的な特性に基づいた温度変化を示す。

試験片に掛かる荷重を段階的に上げていき、各荷重における散逸エネルギーの温度上昇量を測定すると、温度上昇量の変化から疲労限度を予測することが可能となる。縦軸に赤外線カメラが捉えた散逸エネルギーの温度上昇量、横軸に試験片に掛かる繰返し荷重をプロットすると、疲労限度までは荷重を増加させても発熱は緩やかな温度上昇であるが、疲労限度超えた荷重では直に破壊に至るまでではないが散逸エネルギーの温度上昇量が大きな傾きを持つようになる。それぞれの温度変化に伴う直線を描くと温度上昇率の違いから2本の直線が描かれ、変曲点を見出すと疲労試験機を使用した破壊試験で描かれたS-N線図(図15)で求められる疲労限度と一致することがわかる。図16に自動車のクランクシャフトの繰返し曲げ試験における散逸エネルギー測定の画像を示し、図17に温度変化からみられる疲労限界点について示す。

図 15 S-N 曲線
図15 S-N 曲線
図 16 クランクシャフトに掛かる荷重を変化させた時の散逸エネルギー画像 [最高温度 (℃)]
図16 クランクシャフトに掛かる荷重を変化させた時の散逸エネルギー画像 [最高温度 (℃)]

新しい試みとして、赤外線応力測定では赤外線カメラが捉える温度変化量を使用するため、歪ゲージ測定とは異なる主応力和が示される。これをFEMとリンクすることにより主応力和の分離と、FEM設定時の境界条件設定にフィードバックを掛け、FEM解析の信頼性を高めるソフトウエアの開発が進められている。この結果、試験片表面における応力分布がFEMと合致すれば内部や裏側の信頼性が高められるだけでなく、一つの試験条件が設定できれば、試験荷重や試験条件を変えた試験がFEMのシュミレーションで済ませられる可能性がある。

図 17 散逸エネルギー測定による温度上昇と荷重の相関二本の直線の交点が疲労限界点の荷重に相当する荷重
図17 散逸エネルギー測定による温度上昇と荷重の相関二本の直線の交点が疲労限界点の荷重に相当する荷重

まとめ

赤外線サーモグラフィによる試験片表面の温度測定から疲労限度を導き出すことができたのは、最新の赤外線サーモグラフィ技術により短時間に多くの画像が演算処理され、赤外線カメラの温度分解能が飛躍的に向上したからである。今回示した様々な測定時例は、分解能の高いカメラが多くのアプリケーションに適応することを意味する。特に構造物や生体の観測には有用である。

赤外線サーモグラフィによる応力画像解析や散逸エネルギー測定による疲労限度の予測測定は、一定の荷重が繰返し掛かる疲労試験において試験片を破断することなく短時間に疲労限度を予測するのには有効な手法であるといえる。全ての疲労試験にこの測定方法が適応できるわけではないが、疲労試験機を使用して行われる疲労試験と併用することで、実際に破断に至る試作品・試験片の数量と時間を削減でき、疲労試験を大幅に緩和されることが期待される。

参考文献
  1. 矢尾板達也:赤外線による疲労診断技術,検査技術,第4巻第8号,(1999年),日本工業出版。
  2. 矢尾板達也:赤外線による応力測定、疲労破断箇所の予測測定,機械技術,第47巻,第10号,(1999年),日刊工 業新聞社
  3. Pierre Bremond and Pierre Potet, Cedip Infrared Systems-France:Application of Lockin thermography to the measurement of stress and to the determination of damage in material and structures., QIRT5 conferences.2000
  4. Minh Phong Luong: Fatigue limit evaluation of metals using an infrared thermographic technique.,Mechanics of Materials 28(1998)155-163 5)矢尾板達也:ロックイン・サーモグラフィによる赤外線応力解析、疲労限界点,平成12年度第1回赤外線サーモ グラフィによる非破壊評価特別委員会,平成12年6月16日
  5. Pierre Potet, 矢尾板達也:ロックイン・サーモグラフィによる材料および組織中の応力測定および損傷位置検出の アプリケーション,平成12年度第3回赤外線サーモグラフィによる非破壊特別委員会,平成13年1月17日
  6. Pierre Bremond and Pierre Potet, Cedip Infrared Systems-France: Lock-In Thermography: A tool to analyze and locate thermo- mechanical mechanisms in materials and structure., Thermosense XXⅢ April 2001.
  7. 矢尾板達也:新しい疲労限界箇所の特定方法:日本機械学会関西支部第249回講習会,2001.7.11
  8. 矢尾板達也:赤外線カメラによる応力画像評価および散逸エネルギー画像による疲労限界点予測,第33回応力・ひずみ測定強度シンポジウム,2002.1.26
  9. 矢尾板達也:赤外線サーモグラフィによる応力画像と散逸エネルギー測定による疲労限界点予測,非破壊検査, 第51巻第6号,平成14年6月1日,社団法人日本非破壊検査協会
  10. 矢尾板達也:Cedip赤外線カメラによる応力測定:日本材料学会関西支部 講習会「応力計測の基礎とその応用」,2002.11.21-22