非接触空中伝播超音波の測定事例 Applications of non-contact and air-coupled ultrasonic inspection technique

株式会社 ケン・オートメーション Ken Automation, Inc.

キーワード:非接触、空中伝播超音波、チャープ波、音響インピーダンス、一探触子法、二探触子法

概要
空気中を伝播する超音波は空気と試験片の音響インピーダンスの壁によって遮られ、試験片の表面で反射し内部には殆ど浸透しない。試験片に超音波を浸透させるためには、高いエネルギーをもった超音波探触子と超音波発信器、僅かな信号を増幅するアンプとノイズを除去するフィルタが必要とされる。最新の超音波技術を使用した非接触空中伝播超音波の測定事例を述べる。

緒言

水などの接触媒質を必要としない非接触空中伝播超音波は、超音波に携わる科学者や技術者にとって長年の夢であった。空気中を伝播する超音波は空気による減衰と、空気と試験片の音響インピーダンスの壁に遮られ、試験片内部に十分な信号を浸透させることができない。このため、超音波の検査では水などの接触媒質を用いて、超音波探触子から発せられる超音波を試験片に浸透させなければならない。これは水の音響インピーダンスと試験片の音響インピーダンスの差が小さいこと利用し、試験片の中に十分な超音波信号を浸透させることができるからである。しかしながら、水などの接触媒質はグリーンのセラミックスなどの試験片内部に悪影響を与えたり、超音波探触子を移動させながら検査を行う場合には大掛かりな給水装置が必要とされる。

ここでは最新の非接触空中伝播超音波技術を使用した測定事例を述べる。このシステムは高エネルギーを発生する空中伝播超音波探触子、チャープ波を発生させるパルスの圧縮技術、高いゲイン、低ノイズ回路を採用した超音波発信器およびスキャナより構成される。

システム仕様
トータルダイナミックゲイン 150dB以上
使用周波数帯域 50kHz-5.0MHz
サンプリング周波数 30Hz (2チャンネル)
ピーク測定時の分解能 +/-1ns
測定モード 2チャンネル, 4モード
最大出力電圧 400 vpp
外部出力インターフェース RS232
ネットワークインターフェース TCP/IP
アナログ出力 BNCアウトプット
表1 システムの仕様
図1 空中伝播超音波の音響特性
図1 空中伝播超音波の音響特性

空気中を伝播する超音波の音響特性

空気中を伝播した超音波が試験片に浸透するためには、空気と試験片の音響特性が重要な要因となる。異なる媒質の間を透過する超音波は、媒質間の境界面でそれぞれの媒質のもつ音響インピーダンスの相違により音圧反射が生じる。空気と鋼材の境界面における音響インピーダンスと音圧反射率は図1で説明される。音響インピーダンスZは、

Z=ρ・V
(式1)

ρ:密度、V:音速

2つの媒質の境界面における音圧反射率は、次の式で示される。

R=(Z 2 -Z 1 )/(Z 1 +Z 2
(式2)

この結果、空気を伝播する音速340m/sec、空気の密度0.0013g/cm3、鋼材を伝播する音速5900m/sec、鋼材の密度7.8g/cm3とすると、空気中を伝播した超音波は鋼材の表面では音圧反射により99.998%が反射され、鋼材の中には0.002%しか浸透しない。一方、水と鋼材では、水の音速が鋼材の音速に対して1/4ほどであり、93.686%の音圧反射があるが6.3%の浸透があり、水が有効な接触媒質であることが分かる。

空中伝播超音波探触子

使用可能な空中伝播超音波探触子の周波数は50kHzから5MHzとなっている。空気中を伝播する超音波は高い周波数になればなるほど空気中での減衰が大きくなり伝播距離は短いものとなる。空中伝播超音波探触子は高エネルギーのセラミックス圧電素子を使用しており、透過法の多くのアプリケーションでは2MHzまでの探触子が使用される。これは、高い送信出力と低ノイズが可能な超音波発信器と組み合わせて使用することで、低い周波数でも高い分解能を得られるからである。

超音波発信器が出力するチャープ波はパルス波とは異なり、周波数変調された複数のチャープ波を送信することにより、高出力、低ノイズを可能にしている。図2に1MHzの空中伝播超音波探触子にパルス波を与え25mm厚さの鋼材を透過させた波形を示す。この透過波形より、セラミックス圧電素子の空中伝播超音波探触子は、チャープ波を使用せずとも高い透過能力でありながら低ノイズであることがわかる。

図2 25mm厚さの鋼材の透過波形
図2 25mm厚さの鋼材の透過波形

測定事例

非接触空中伝播超音波は下記の測定事例に示されるように、材料の物質特性に基づく研究分野に優れた装置であるだけでなく、空中伝播超音波の特長を生かし、水などの媒質を使わないライン上のオンラインモニタリングとしても非常に有用な装置である。装置本体のデジタルプロセッサには外部機器とシンクロさせるInput/Outputコネクタがあり、連続厚さ測定、欠陥検査、内部剥離検出、密度・音速測定等に適応される。スキャナと組み合わせて画像化することで、試験片内部の特性を評価するのに有効である。

(1).表面反射波による画像化

図3に周波数3MHz,振動子径6mm,焦点距離6mmの焦点型の空中伝播超音波探触子を使用し、インデックスピッチ0.1mmにより描かれた試験片表面の反射波画像を示す。500円硬貨表面にある0の数字の中に刻まれた500円の文字までもが検出されている。焦点型探触子はビームを集束させることで小さな焦点に対して大きな音場エネルギーとなり、反射音圧の相違いから細かなプロットで画像化される。焦点型探触子は反射だけではなく透過型でも微細な領域を画像化するのに有用なツールである。

図3 一探触子法による表面反射波画像
図3 一探触子法による表面反射波画像

(2).底面反射波による画像化

図4に周波数500kHz、振動子径12mmの2つの空中伝播超音波探触子を使用し、CFRP複合材試験片の片側より得られる底面反射波の画像を示す。1章で説明したように空気中を伝播する超音波は試験片の表面で殆ど反射されてしまい、極僅かに浸透した波形の底面反射波は極めて小さなものとなる。表面反射波と底面反射波の比は水などの接触媒質を使う場合に比べると格段に小さく、底面反射波は表面反射波の中に埋もれてしまい底面反射波の検出は困難なものとなる。そこで、底面反射波を表面反射波から分離するためには、表面反射波と底面反射波の時間差が生じるように、2つの探触子の距離と角度を調整しなければならない。また、表面反射波と併せて起こる表面を伝わる表面波とも識別しなければならない。これらのことを十分に考慮すれば、片側からの二探触子法により底面反射波を捉える手法は極めて有効な測定手法である。

図4 二探触子法による底面反射波画像
図4 二探触子法による底面反射波画像

(3).CFRP複合材の透過画像

図5に周波数500kHz、振動子径12mmの2つの空中伝播超音波探触子を使用し、厚さ5mm、測定領域200X260mmのCFRP複合材の透過波形画像を示す。複合材は水に浸すと欠陥箇所に水が浸透するため空中伝播超音波が切望される試験片である。この試験片の中には、5mmから35mmの大きさと欠陥厚さの異なる人工欠陥が埋め込まれており、欠陥により透過される波形の減衰が異なる。淡い色の箇所が減衰の大きい箇所である。

図5 CFRP複合材の透過画像 図5 CFRP複合材の透過画像
図5 CFRP複合材の透過画像

(4).ブレーキディスクの透過画像

図6に周波数500kHz、振動子径12mmの2つの空中伝播超音波探触子を使用し、厚さ約20mm、測定領域85X200mmのCFRPC複合材製ブレーキディスクを透過した波形の画像を示す。幾層にも積層された複合材の各層間の空隙、中央の衝撃材、内部に埋め込まれたワイヤまででもが鮮明に画像化されている。色の淡い箇所は積層されたコンポジット層にある空隙で、黒く示された細かな連続している点は透過する超音波の音速の速い金属製ワイヤである。また、ディスク中央部の色濃い部分は、カーボンの衝撃吸収材である。このように透過波形による画像化は、外見からでは判別できない内部の貴重な情報を示している。

図6 ブレーキディスクの透過画像
図6 ブレーキディスクの透過画像

(5).グリーンの粉末冶金成形体

図7に周波数500kHz、振動子径3mmの2つの空中伝播超音波探触子を使用し、測定領域40X60mm測定インデックスピッチ0.4mmで測定したグリーン(未焼結)の粉末冶金成形体の透過画像を示す。色濃く示されている箇所が密度の高い箇所で、色の淡い箇所が密度の低い箇所である。

粉末冶金は焼成すると密度の違いにより収縮変形やクラックを引き起こす。このためグリーンの成形体の段階でどの程度の密度バラツキであるかを把握することが求められる。ところが、グリーンの成形体は水などの接触媒質を使用すると粉体に浸透するため正しい密度とはならない。非接触空中伝播は、試験片に接触することなく成形体内部の密度分布を画像化することが可能である。粉末冶金のみならず、圧粉体であるセラミックス、カーボン等の粉末成形体の密度分布評価には有効である。

図7 粉末冶金成形体の透過画像
図7 粉末冶金成形体の透過画像

(6).積層されたセラミックス半導体パッケージ

図8に2つの空中伝播探触子を使用し、積層されたセラミックス半導体パッケージの透過波形を示す。セラミックスは水などの接触媒質を嫌う代表的な試験片である。正常にラミネートされている箇所は試験片を透過する信号が検出されるが、内部剥離または空隙のある箇所は、空隙箇所で超音波が反射や散乱されて超音波が透過しない。これによってパッケージ内部の剥離や空隙の評価が行われる。空中伝播超音波は、1枚目のパッケージを透過する力を持っているが、1枚目を透過した超音波は大きく減衰するため2枚目を透過する力はない。アルミパッケージの食品の接合・接着状態、積層された金属板の間の剥離検査、複合材のデラミネーションの検出に有効である。

図8 積層されたセラミック半導体パッケージの透過波形 上:透過箇所, 下:剥離箇所
上:透過箇所, 下:剥離箇所
図8 積層されたセラミック半導体パッケージの透過波形

(7).ガラスの厚さ測定

図9に周波数1MHz、振動子径12mmの2つの空中伝播探触子を使用し、約1mm厚さのガラスの厚さ測定例を示す。測定場所を8箇所移動し、それぞれの測定点の厚さを表示している。グラフの縦軸はガラスの厚さ(mm)で、横軸は経過時間を示している。

空中伝播超音波は試験片内部の状態をモニタリングできるばかりではなく、超音波発信器の2チャンネル4つの測定モードにより、上下の2つの探触子からの反射波形と透過波形を同時に捉えることができる。試験片の厚さ測定や、試験片の厚さのバラツキに影響されない試験片内部を透過する音速・減衰・密度を測定することができる。標準試験片によるキャリブレーションを行えば、厚さの異なる試験片でも連続して厚さ・音速測定が可能である。試験片内部の多重エコーが測定されれば、試験片の厚さと減衰量が測定され、音響インピーダンスより密度が計算され表示される。

図9 ガラスの厚さ測定
図9 ガラスの厚さ測定

まとめ

チャープ波パルス圧縮技術は1950年代より提案された技術であったが、実用化されるのには長い時間を要した。セラミックス圧電素子を使用した空中伝播超音波探触子と融合することで、空中伝播超音波は高い透過能力と高いS/N特性を持ち併せることができた。ここで示された事例は、この手法が多くの材料、アプリケーションに対して適応できることを示している。

空中伝播超音波は、単に水などの接触媒質を使用しない通常の超音波の代用というだけではなく、材料の特性を評価する上でも多くの内部情報をもたらすことがわかる。特にセラミックス、粉末冶金、グリーンの材料等の密度分布測定、音速測定、欠陥検出、剥離検出、結晶・粒度測定、試験片内部の画像化技術は、非接触空中伝播超音波の最も有効な評価手法であると云える。また、接触媒質を使用しないので非接触の連続厚さ測定、音速測定、剥離検出、接合状態の合否判定、溶接箇所の特定、液体・気体の流速・濃度測定などのオンラインモニタリングとしても有効である。

参考文献

  1. M.C. Bhardwaj, I. Neeson, G. Stead : Introduction to contact-free ultrasonic characterization and analysis of Consolidated materials.
  2. M.C. Bhardwaj, I. Neeson : A direct comparison of conventional air-scan systems with our phenomenally advanced NCA-1000 in conjunction with non-contact transducers.
  3. M.C. Bhardwaj : Molded ceramic semi-conductor package - transmitted signal analysis.
  4. 矢尾板達也 :「非接触空中伝播超音波の実例」、検査技術、2001.3 VOL.6 NO.3、日本工業出版
  5. 矢尾板達也 :「空中伝播式非接触超音波画像解析」,超音波TECHNO,2001.10 VOL.13 No.10,日本工業出版
  6. M.C. Bhardwaj : NUC Imaging of C-C Composite Disk Brake, Surface Analysis, Transmission Image of GFRP, and same side NUC Imaging.