非接触空中伝播超音波測定装置の高速化と高密度測定 Improvement in the speed and high resolution measurement of a non-contact air propa gation ultrasonic measuring system.

株式会社 ケン・オートメーション 〇矢尾板達也 / Ultran Group Mahesh Bhardwaj , Thomas Eischeid Ken Automation, Inc. Tatsuya Yaoita / Ultran Group Mahesh Bhardwaj , Thomas Eischeid

キーワード:超音波、空中伝播、超音波探触子、分解能、透過法、反射法、

概要
空中伝播超音波は空気を伝播させて試験体に超音波を浸透させるために、大きなエネルギーと、検出される僅かな検出信号から S/N を改善させるための信号処理が必要とされ、速い測定に不向きで あった。ここでは、新しく開発した検査装置により、高速測定と、高分解能の両立を可能とした。

緒言

非破壊検査の手法としては、X線、渦電流、赤外線、表面探傷、レーザー、放射線等があるが、超音波は試験体のより多くの内部組織に関する情報が提供される。超音波手法の中でも非接触空中伝播超音波の適応が広がっている。空中伝播超音波は、材料の原料に近い状態、グリーンのセラミックスや材料組成の解析、密度分布、水や接触を嫌う材料、多孔質材料、複合材、ハニカムに向いている。また、非接触で測定可能なので生産ラインにおけるインライン検査が可能。コンクリート、アスファルト、橋梁、レール等の構造物の検査にも有効である。

しかしながら、空中伝播超音波は空気を伝播させて試験体に超音波を浸透させるために、空気中で大きく減衰する超音波を補完するために大きなエネルギーと、検出される僅かな検出信号からS/Nを改善させるための信号処理が必要とされる。このため、速い測定に不向きで、大きな試験体を測定するためには多くの時間を要した。

ここでは、新しく開発した検査装置により、高速測定と、高分解能の両立を可能とした検査手法に関して述べる。

空中を伝播する超音波の音響特性

空中を伝播させて試験片に超音波を浸透させるためには、音響特性が重要な要因となる。異なる媒質の間を透過する超音波は、媒質間の境界面で媒質のもつ音響インピーダンスの相違により音圧反射が生じる。空気と鋼材の境界面における音圧反射率は第1図で説明される。この結果、空気を伝播する音速340m/sec、空気の密度0.0013g/cm3、鋼材を伝播する音速5900m/sec、鋼材の密度7.8g/cm3とすると、鋼材の表面では99.998%が反射され、鋼材の中には0.002%しか浸透しない。一方、水と鋼材では93.686%が反射され、6.3%の浸透があり、水が有効な接触媒質であることが分かる。

図1 空中を伝播する超音波の 1 つの探触子
図1 空中を伝播する超音波の 1 つの探触子

空中伝播探触子

使用される空中伝播超音波探触子は空気中の減衰に耐えられるような大きなエネルギーの出力が必要とされ、図2に示すように探触子の表面には空気に近い材料が貼られている。周波数としては周波数50kHzから5MHzとなっている。特に空気中を伝播する超音波は高い周波数になればなるほど空気中での減衰が大きくなり伝播距離は短いものとなる。

図2 空中伝播探触子の概要
図2 空中伝播探触子の概要
図3 空中伝播超音波による測定手法
図3 空中伝播超音波による測定手法

空中伝播超音波による測定手法

空中を伝播する超音波は試験体に対して図3に示すような測定手法が可能である。第2章に示した様に空中伝播では試験体表面での反射の割合に対して試験体に入射する超音波の割合が圧倒的に小さく、このため1探触子法による底面エコーの検出は難しく、2探触子による透過法または、2探触子による片面からの測定方法が用いられる。現状では1探触子による検査手法は、表面反射、音速測定、音響インピーダンスの低い材料の試験等に留まっている。

また、入射する超音波は試験体表面が平坦であることが望ましく、試験体表面の影響も考慮しなければならない。

図4 空中伝播超音波測定装置
図4 空中伝播超音波測定装置

測定装置

空中伝播に適応させる測定装置としては、次の2点が必要とされる。超音波探触子に対して最大なエネルギーを伝播させることと、空気を伝播して試験体を透過してきた超音波形は極僅かで、大幅なS/Nの改善が必要とされる。このため従来は、低いサンプリングレートでしか測定できず、大きな試験体の測定には多くの時間を要した。ここでは演算速度を飛躍的に高め、500~1000Hzの高速サンプリングを可能とし、大型構造物への測定適応性を高めている。

検出能力

図5に10mm厚さのアクリル板に0.5mmφから6.3mmφまでの9種類のドリル穴を側面から明け、200kHz,500kHz,1MHz,2MHzのそれぞれの周波数の異なる空中超音波探触子を使用して、2探触子による透過試験の検出能力比較を図6に示す。2MHzの空中伝播探触子では、0.5㎜φのドリル穴の検出を可能としている。

図5 検出能力評価用試験体
図5 検出能力評価用試験体
図6 検出能力評価結果
図6 検出能力評価結果

2探触子による透過法の測定事例

空中伝播超音波では、試験体表面の反射の影響を受けずに測定ができる2探触子による透過法が最も一般的で、欠陥/?離検出、密度分布測定、試験体の音速や厚さ測定に使用される。図7に示すように透過法における試験体中の超音波の減衰量は、音響インピーダンス、材料組織、内部欠陥、内部組織の均一性、その他の物理特性を示すもので、材料評価の有効な手法である。

図8に幾つかの、2探触子による透過法の測定事例を示す。

図7 2探触子による透過法
図7 2探触子による透過法
図8 2探触子による透過法の測定事例
図8 2探触子による透過法の測定事例

2探触子による片面反射法の測定事例

2探触子による透過法では、大きな試験体や構造物を評価する場合大がかりな移動装置が必要とされる。このため、図9に示すような2つの探触子による片面に置いた反射法による測定も可能である。透過法では、直接数値として音速、伝播時間、減衰量が評価されるが、片面反射法では、入射角や表面反射の影響によって数値が大きく変わることにも配慮しなければならない。また、入射角度によって、超音波測定ビームスポットが拡散するので、欠陥形状認識性が透過法に比較すると劣る。図10に2探触子による透過法と片面反射法との比較画像を示す。

図9 2探触子による片面反射法
図9 2探触子による片面反射法
図 10 2探触子による透過法と片面反射法の比較
図10 2探触子による透過法と片面反射法の比較

1探触子による反射法

図11に示す1探触子による反射法は、表面形状測定、反射音圧の解析、深さ測定、腐食測定等に使用される。しかしながら、4章で説明したように試験体表面の反射の影響で、試験体の底面エコーを検出することは難しい。図12に1探触子による反射法の測定事例を示す。

図13にアクリル上に0.02~2.6㎜幅のスリットを加工し、3MHzの収束型探触子を使用して行ったスリットの検出能力を示す。0.02㎜幅のスリットが検出されている。

図 11 1探触子による反射法
図11 1探触子による反射法
図 12 1探触子による反射法の測定事例1 図 12 1探触子による反射法の測定事例2
図12 1探触子による反射法の測定事例
図 13 1探触子による反射法のスリットの評価
図13 1探触子による反射法のスリットの評価

まとめ

非接触空中超音波では、材料の特性に応じた試験体内部の情報を検出できる。ここでは、高速化と高分解能な測定事例を示したが、同時に、空気を伝播する上での制約があることも示している。