赤外線カメラとロックイン・サーモグラフィの測定事例
- ソーラーパネルの非破壊検査 -

株式会社 ケン・オートメーション 矢尾板達也

赤外線カメラ

可視光で見える映像とは異なり、赤外線は被測定物自体が発する赤外線を赤外線検知素子で受け、電気信号に変換されたものが画像化される。代表的に使用されている赤外線検知素子としては、短い波長からInGaAs、HgCdTe(MCT)、InSb、PtSi、QWIP、マイクロボロメーターがある。単素子の第一次世代から、ラインセンサの第二次世代、現在の主流は二次元のフォーカル・プレーンアレイとなっている。赤外線検知素子は冷却を必要としない非冷却型(InGaAs、マイクロボロメーター)と、素子の熱雑音を低減させる冷却型があり、冷却型は液化窒素やアルゴンガスによる冷却から、ステアリングクーラー電子冷却器に移行が進んでいる。非冷却型の温度分解能(NETD)は0.05℃程度、冷却型では0.02℃程度となっている。

赤外線カメラ(図1)からの画像出力を高速で処理できるようになり、非冷却型で60Hz程度、冷却型では320X256画素の大きさで、300~400Hz8X64画素では20,000Hz程度の高速撮影が可能となっている。

320X256画素に対して640X512画素の解像度の高いカメラが市販されており、次世代モデルとして1280X1024画素の赤外線カメラや赤外線検知素子が製作されている。高解像度は、望遠レンズを使用して遠方の物体の認識性の向上や、マクロレンズを使用して微細組織の観察に有効である。

赤外線カメラと併せて、ロックイン方式(図2)とよばれる任意に設定した一定間隔のフレームレートに基づいて赤外線画像の取込みと演算を連続的に実施し刻々と変化する温度変化量から平均化した画像を作成することが可能である。2,000枚の画像を20秒で積算すると、温度分解能は0.001℃以上となる。ここではこれらの赤外線カメラを使用した、最新の測定事例について述べる。

図1 赤外線カメラ
図1 赤外線カメラ
図2 ロックイン方式の概要
図2 ロックイン方式の概要

高速撮影

図3にエアーバッグの展開時の赤外線画像を示す。通常は高速のCCDカメラによって展開時の挙動の評価が行われるが、赤外線カメラを使用することで、温度分布やガスの流れを可視化することができる。この画像では160X120画素で900Hzのフレームレートで撮影を行った。

高速化の上限としては、カメラの取込み時間の制約がある。どんなにPCや通信技術の向上により画像転送速度が速くなっても、カメラの取込み時間以上の高速撮影はできないからである。従来のITRモード(IntegrationandReadout、画像を取込んだ後にデータを出力)に対して、IWRモード(IntegrationwhileReadout、画像の取込み中に前の画像のデータ出力)が使用できることで、高速撮影が可能となった。

中波長赤外線(観測波長域3~5μm)では常温での撮影の場合、数msecの取込み時間を要するので、取込み時間が長いため高速で移動する被測定物の撮影には向かない。長波長赤外線(観測波長域7~12μm)では数十~百μsecの取込み時間で済むため、高速移動する被測定物の撮影に有効である。長波長赤外線カメラの測定事例として、高速で回転するタイヤの表面温度測定(図4)と、プラズマ溶射のノズルの測定事例(図5)を示す。

図3 エアーバッグの展開
図3 エアーバッグの展開
図4 高速で回転するタイヤの赤外線画像
図4 高速で回転するタイヤの赤外線画像
図5 プラズマ溶射のノズル画像
図5 プラズマ溶射のノズル画像

高解像度赤外線カメラ

赤外線カメラの画素数は64X64、128X128、160X120画素(マイクロボロメーター)、320X240画素(マイクロボロメーター、InSb、MCT、QWIP)、640X480画素(マイクロボロメータ、InSb、QWIP)、801X512画素(PtSi)が主流となっている。既に軍事用では2kX2kの画素数以上のカメラもあるが、次世代モデルとして1240X1024画素の赤外線カメラや赤外線検知素子が紹介されている。画素の高密度化と併せて、1画素あたりの素子の大きさが小さくなってきており、小さな画素で十分な赤外線エネルギーを確保するためには、長い取込み時間が必要となる。このため、高解像度と高速化は相反するファクターとなっている。

640X512画素のカメラを使用して、図6に望遠レンズを装着した屋外撮影画像と、図7にマクロレンズを使用した半導体の測定画像を示す。640X512画素のカメラで3倍のマクロレンズを使用すると、1画素あたり5X5μmの解像度となる。

図6 望遠レンズを使用した640X512 画素の画像
図6 望遠レンズを使用した640X512 画素の画像
図7 マクロレンズを使用した640X512 画素の画像
図7 マクロレンズを使用した640X512 画素の画像

ロックイン方式を使用した測定

赤外線カメラの温度分解能を向上させるためにロックイン方式により、繰り返し掛かる微細な温度変動量を測定する手法がある。代表的なものとしては、疲労耐久試験における赤外線応力測定があり図8に自動車ハブ、図9に自動車足回り部品の赤外線応力測定画像を示す。

図8 自動車ハブの赤外線応力測定画像 図9 自動車足回り部品の赤外線応力測定画像
図8 自動車ハブの赤外線応力測定画像
図9 自動車足回り部品の赤外線応力測定画像

ロックイン方式による非破壊検査の測定事例として、図10にソーラーパネルに一定間隔で電流を流した際に、ソーラーパネル内のクラックによって発生する温度変化の画像を示す。

赤外線温度画像 ロックインによる温度差画像
赤外線温度画像
ロックインによる温度差画像
図10 ソーラーパネルの非破壊検査画像

生体観測の事例として、心臓の鼓動に応じた体表面の温度変化画像を測定することが可能となる。ここでは、心拍数72回(1.2Hz)として、ロックイン方式で心拍数に見合った赤外線温度差の画像を撮影した。即ち心臓の鼓動により供給される血液による温度上昇と、温度低下の温度差を画像化している。図11に人体表面の赤外線温度画像とロックイン方式による赤外線温度差画像を示す。

赤外線温度画像  ロックインによる温度差画像
赤外線温度画像
ロックインによる温度差画像
図11 人体表面の赤外線画像
参考文献
  1. Pierre Bremond and Pierre Potet, Cedip Infrared Systems-France: Lock-In Thermography: A tool to analyze and locate thermo- mechanical mechanisms in materials and structure., Thermosense XXⅢ April 2001.
  2. 矢尾板達也:新しい疲労限界箇所の特定方法,日本機械学会関西支部第249回講習会,2001.7.11
  3. 矢尾板達也:赤外線カメラによる応力画像評価および散逸エネルギー画像による疲労限界点予測,第33回応力・ひずみ測定強度シンポジウム,2002.1.26
  4. 矢尾板達也:赤外線応力測定の最新動向,日本非破壊検査協会,赤外線サーモグラフィによる非破壊評価特別委員会2003.6.27
  5. 矢尾板達也:赤外線カメラによる応力測定と疲労限界点の予測測定,自動車技術会,2003年秋季大会,2003.9.19
  6. 矢尾板達也, 矢ケ崎文男:赤外線応力測定におけるランダム位置補正ソフトの開発,日本非破壊検査協会,2007年 秋季大会,2007.10.25
  7. 矢尾板達也, 矢ケ崎文男, Pierre Bremond :赤外線カメラと赤外線応力測定の事例,Car Testing 2008,2008.3.11