ハイエンド冷却型赤外線カメラの適用事例

株式会社 ケン・オートメーション 矢尾板達也

はじめに

赤外線カメラは高性能化と高密度化、一方で低価格化の2極化が進んでおり、赤外線サーモグラフィの市場規模は年々拡大している。図1に示すように赤外線カメラには冷却型と非冷却型の赤外線カメラがあり、性能とコストによりすみ分けられている。

冷却型赤外線カメラはハイエンド赤外線カメラと云われ、640X512画素から更に高画素の1240X1024画素の赤外線カメラが発売されている。通常、高画素化に伴い各画素ピッチが狭くなると、各画素の入射してくる赤外線エネルギー量が少なくなるので取り込み時間を長くする必要があるが、画素ピッチが狭くとも取り込み時間を長くしないような感度の向上が図られている。高性能化により1秒間に撮影できるフレームレートと温度分解能の向上により、非常に短時間に発生する小さな温度変化が捉えられるようになっている。

非冷却型赤外線カメラは赤外線検知素子の感度向上に伴い、温度分解能の向上が進んでおり温度分解能を示すNETDでは0.02℃(常温域)レベルのものが発売されている。また低価格化に伴い320X240画素から640X480画素、更に高画素の1024X768画素の赤外線カメラ(図2)が発表されている。また、ソフトウエアで画像補間を行い、疑似的に2倍や4倍に解像度を向上させた画像を図3に示す。

図1 冷却型赤外線カメラと非冷却型赤外線カメラの比較
図1 冷却型赤外線カメラと非冷却型赤外線カメラの比較
FLIR社製 T1040 1024X768画素非冷却型赤外線カメラ
図2 FLIR社製 T1040
1024X768画素非冷却型赤外線カメラ
FLIR社製 T1040 1024X768画素非冷却型赤外線カメラの高解像度赤外線画像
図3 FLIR社製 T1040
1024X768画素非冷却型赤外線カメラの高解像度赤外線画像

一方、画素数を少なくした低価格な赤外線カメラが入門モデルとして普及してきており、従来スポット温度計や赤外線カメラを使用としなかったマーケットまで普及してきている。このクラスのカメラの画素数は 64X64,60X80~120X120 画素レベルであり、簡単に測定可能であるが、配電盤内部に予め高い温度の箇所が特定されているような箇所の温度測定と簡単な赤外線画像の保存用として使用されている。また、小型のデジタルカメラのように個人レベルで、日常生活の中で使用できるポケットに収納可能な小型の赤外線カメラもある。これらのカメラは CCD画像と赤外線画像を重ね合わせることで輪郭を強調することができ、少ない画素でも日常生活では十分に鮮明な画像を表示することができている。

ハイエンド冷却型赤外線カメラ

赤外線観測波長域はSWIR(0.8~2.5μm),MWIR(3~5μm),LWIR(8~12μm)の帯域があり、赤外線検知素子を搭載した赤外線カメラは電子冷却器で冷却されている。図4に示す1240X1024画素のMWIR赤外線カメラの高精細な画像は、望遠レンズと組み合わせた遠隔監視、拡大レンズとの組み合わせによる微細領域の評価、図5のようなタイヤにかかる極僅かな温度変化で詳細な領域の観察に有効である。

他の用途としてMWIR赤外線カメラは赤外線応力測定や赤外線サーモグラフィ非破壊検査として使用されている。図6に自動車ドアの赤外線応力画像と、図7に複合材内部に発生する剥離の非破壊検査の事例を示す。

図4 FLIR社製 X8400SC 1240X1024画素冷却型赤外線カメラ
図4 FLIR社製 X8400SC 1240X1024画素冷却型赤外線カメラ
図5 タイヤ表面の赤外線温度画像
図5 タイヤ表面の赤外線温度画像
図6 自動車ドアの赤外線応力測定画像
図6 自動車ドアの赤外線応力測定画像
図7 複合材の非破壊検査疲労耐久試験における複合材の剥離の進展
図7 複合材の非破壊検査疲労耐久試験における複合材の剥離の進展

高速赤外線カメラ

図8に示すMWIR赤外線カメラでは320X240画素で2000枚/秒の高速撮影が可能であり、図9に128X64画素で12000枚/秒の撮影枚数で、ミーリングカッターによる機械加工時の画像データを示す。ミーリングカッターは720rpmの速度で回転しているが、12000枚/秒の撮影枚数ではカッターの切り込みよって変化するカッター先端の温度変化や切粉の形状や飛散状態をモニタリングすることができ、高速で移動する測定対象物でも画像が流れることが少なく撮影可能である。

図8 TELOPS社製FAST-IR-2K高速赤外線カメラ320X240画素で2000Hz
図8 TELOPS社製FAST-IR-2K高速赤外線カメラ320X240画素で2000Hz
図9 ミーリングカッターによる切削加工
図 9 ミーリングカッターによる切削加工

赤外線分光カメラ

赤外線観測波長域MWIRとLWIR用にそれぞれ別な赤外線分光カメラがあり、観測波長域内を短い波長から長い波長まで細かく波長を分光すると波長域全体では分からないガスや水蒸気の吸収帯で減衰する赤外線を画像化できる。図10に示すような赤外線カメラに内臓されているフィルタを回転同期させて撮影する方法では数種類の高速分光が可能であり、図11にフィルタによる水蒸気の減衰の画像を示す。

図10 内臓の回転ホィールにフィルタを付けた赤外線分光カメラ
図10 内臓の回転ホィールにフィルタを付けた赤外線分光カメラ
図11 フィルタによる水蒸気の減衰赤外線画像
図11 フィルタによる水蒸気の減衰赤外線画像

図12に示すようなハイパースペクトラル分光装置を内蔵したカメラでは、赤外線インターフェログラム云われる機械的な結像強度変化波形と2つの黒体とが内蔵されている。このため、赤外線をパッシブで数千種類の分光が可能である。図13に示すようなガスのリアルタイム成分分析や、保存した画像フーリエ変換させて各フィルム一枚ずつ、併せてXYの各画素一ピクセル毎の赤外線波長域特性を評価することが可能になっている。図14に飛行機が滑走路で待機中のエンジンの燃焼ガス、機体に反射する大気、滑走路のアスファルトの赤外線周波数特性を示す。この装置は30㎏程の重量であるが、ハンドキャリして火山観測や、飛行機に搭載して上空から地上のガス成分、鉱石分布、表面直下の地下埋蔵物検知等の観測に使用される。

図12 ハイパースペクトラル分光装置
図12 ハイパースペクトラル分光装置
図13 ハイパースペクトラル分光装置によるガスの検知
図13 ハイパースペクトラル分光装置によるガスの検知
図14 ハイパースペクトラル分光装置による駐機中の航空機
図14 ハイパースペクトラル分光装置による駐機中の航空機

高感度赤外線カメラ

図15に高感度赤外線カメラを示す。このカメラがMCT赤外線検知素子を採用しており、MCT赤外線検知素子で問題となるバッドピクセルをリアルタイム補間でき、MCT赤外線検知素子特有の非常に高感度な赤外線画像を示している。図16に携帯電話の押ボタンスイッチの赤外線画像と、図17に15-300㎜ズームレンズによる観覧車の画像を示す。

図15 15-300㎜ズームレンズ付き高感度赤外線カメラ
図15 15-300mmズームレンズ付き高感度赤外線カメラ
図16 携帯電話の押ボタンスイッチの赤外線画像
図16 携帯電話の押ボタンスイッチの赤外線画像
図17 15-300mmズームレンズによる赤外線画像
図17 15-300mmズームレンズによる赤外線画像

おわりに

赤外線カメラの温度分解能とPCの演算能力の向上により、短時間に小さな温度変化を捉えることが可能となった。また非冷却型赤外線カメラの温度分解能の向上と低価格化により赤外線サーモグラフィのニーズが格段に広まってきている。また、赤外線サーモグラフィを使用した設備診断、外壁診断、構造物のき裂観察、非破壊検査のニーズが高くなってきている。この結果、今まで他の測定方法でしか対応できなかったものでも赤外線サーモグラフィによる評価が進んでいる。
ここではハイエンド冷却型赤外線カメラを使用した幾つかの測定事例を示したが、今後も画像処理技術の向上によりリアルタイム測定ソフトウエアの改良や、より高画素の赤外線カメラの開発等の更なる改善が期待される。

参考文献

  1. Pierre Bremond, Cedip Infrared Systems-France : High-speed stress measurement by Thermal Stress Analyzer on slam door and crash test.; Testing Expo 2004, 25,26 & 27 May 2004, Stuttgart Germany.
  2. 矢尾板達也,矢ヶ﨑文男,澤尚,Pierre Bremond:赤外線応力測定における周波数解析測定事例:自動車技術会秋季学術講演会:2009年10月9日
  3. Pierre Bremond:Full field stress / strain imaging. Advantages and disadvantages of thermography and digital image correlation.:Cedip user meeting:22 January, 2010
  4. 矢尾板達也,Pierre Bremond:赤外線サーモグラフィによる疲労と破壊の観察:日本非破壊検査協会 第6回レーザー超音波および先進非破壊計測技術研究会:2010年4月12日
  5. 矢尾板達也,高尾邦彦,Alexander Dillenz:赤外線サーモグラフィを使用した溶接部の欠陥検査事例:日本非破壊検査協会 平成24年度秋季講演大会:2012年10月23日
  6. 矢尾板達也:赤外線サーモグラフィによる非破壊検査事例:計測技術,565. Vol.43. No.4, P.9-12, 2015.3