広ダイナミックレンジ近赤外線カメラ(NIT社製 WiDy)による観察事例

株式会社 ケン・オートメーション 矢尾板達也

近赤外線

赤外線カメラでは可視光で見える映像とは異なり、測定対象物自体が発する赤外線を赤外線検知素子で受け、電気信号に変換されたものが画像化される。入射された赤外線が電気信号に変換される量は、取込時間,電荷量,量子効率,電子収集効率および有効面積比の相関による。大気中を伝播する赤外線は水蒸気や炭酸ガス等で減衰する帯域があり、透過する赤外線は波長の短い方から近赤外線(SWIR,観測波長域0.8~2.5μm), 中波長赤外線(MWIR,3~5μm),長波長赤外線(LWIR,7~14μm)として区分けされる。

ここではInGaAs赤外線検知素子を使用した、広ダイナミックレンジを持つ近赤外線カメラの観察事例を紹介する。

近赤外線カメラの観察事例

図1の左側に近赤外線カメラ画像を、右側に可視カメラの画像を示す。近赤外線は可視画像より波長が長い分、大気中の水蒸気の影響を受けにくいので、可視カメラでは分かりにくい7㎞先の飛行機の陰影を捉えている。図2に監視カメラとして、屋外の近赤外線画像を示す。

図1 近赤外線カメラと可視カメラの画像の比較
図1 近赤外線カメラと可視カメラの画像の比較
図2 近赤外線の風景画像
図2 近赤外線の風景画像

近赤外線はガラスを透過し易いので、図3に欠陥検査の事例としてガラスに発生している割れの検出画像を示す。

近赤外線は半導体を透過するので、ソ ーラーパネルの欠陥検査(図4)や半導体内部の回路の故障解析(図5)にも使用されている。

近赤外線は常温帯域では赤外線の入射強度が低いので温度測定には向かないが、高温帯域では温度測定ができ、図6に高温帯域の自動車部品、図7に金属溶融炉の近赤外線画像を示す。

図3 ガラスの欠陥検査画像
図3 ガラスの欠陥検査画像
図4 ソーラーパネルの近赤外線画像
図4 ソーラーパネルの近赤外線画像
図5 半導体回路の近赤外線画像
図5 半導体回路の近赤外線画像
図6 高温状態の自動車部品の近赤外線画像
図6 高温状態の自動車部品の近赤外線画像
図7 金属溶融炉の近赤外線画像
図7 金属溶融炉の近赤外線画像

広ダイナミックレンジ

一般的なカメラは図8の左側に示されるように、入力してくる光強度に対して検知素子からの出力信号はリニアに上昇する。入射してくる光強度と出力信号の傾きは一定である。このため光強度が高い高温帯域から発せられる近赤外線では、飽和しないように短い取り込み時間にする。それでも飽和してしまうような光強度に対しては、減衰フィルタを 用いて入射してくる赤外線強度を減衰させる必要がある。

一方、広ダイナミックレンジの出力を持つカメラでは図8の右側に示されるように、入力してくる光強度に対して検知素子からの出力信号はログスケールで示され、高い光強度を持つ高温帯域から発せられる近赤外線でも飽和しない。図9に示されるように黒体温度が3000℃で、光子束が1.00X1015(ph/s)であっても飽和しないレベルのダイナミックレンジを持っている。

図8 光強度と検知素子からの出力信号の相関
図8 光強度と検知素子からの出力信号の相関

広ダイナミックレンジは光強度が高い高温帯域でも飽和しない感度特性を持っているが、常温帯域では極僅かな温度変化に対する感度特性が低い。このため、2017年に発売される新しいカメラでは、リニアスケールとログスケールの切り替えが可能なモデルを用意し、高温帯域を含む画像ではログスケールを、常温帯域だけで感度を優先させる場合にはリニアスケールを選択して使用することができる。

図9 金属溶融炉の近赤外線画像
図9 金属溶融炉の近赤外線画像

広ダイナミックレンジ近赤外線画像

図10に示すように広ダイナミックレンジの近赤外線画像では、3000℃の電球フィラメント、300℃のハンダゴテ、常温の室内の様子が飽和することなく撮影されている。

図11に溶接の状態を示し、左側が可視カメラの画像で、右側が広ダイナミックレンジの近赤外線カメラの画像である。広ダイナミックレンジの近赤外線カメラでは溶接中心部の高温帯域でも飽和することなく画像化できている。

図10 電球フィラメントを含む近赤外線画像
図10 電球フィラメントを含む近赤外線画像
図11 溶接状態の画像比較
図11 溶接状態の画像比較

まとめ

近赤外線は、可視画像と赤外線温度画像の中間に位置する波長帯であり、可視画像や赤外線温度画像では見えにくい現象を捉えることができる。

広ダイナミックレンジの読み出し回路を備えた広ダイナミックレンジ近赤外線カメラは、常温帯域から高温帯域でも飽和することのない画像を撮影することができ、特に高温帯域での観察に有効である。

光強度に対する検知素子からの出力がリニアスケールとログスケールに切り替えられるようになれば、高温帯域だけでなく常温帯域でも高感度な画像化が可能になる。

参考文献
  1. 矢尾板達也:ハイエンド冷却型赤外線カメラの適応事例:計測技術,578. Vol.44. No.4, P.1-5,2016.3
  2. 矢尾板達也:冷却型赤外線カメラの適応事例:検査技術, Vol.21. No.8, P.40-45,2016.8