高速赤外線サーモグラフィによる過渡現象の可視化事例 Visualization of high-speed phenomena using high-speed infrared thermography

矢尾板達也、矢ケ﨑文男(㈱ケン・オートメーション)/ Marcotte Frederick,Farley Vincent(Telops Inc.) Tatsuya YAOITA, Fumio YAGASAKI (Ken Automation, Inc.) / Marcotte Frederick,Farley Vincent(Telops Inc.)

キーワード:高速赤外線サーモグラフィ,温度測定,スペクトル分析
Keywords: High-Speed Infrared thermography, Temperature measurement, Spectrum analysis

 The standard infrared thermography has taken certain integration time with the photography per once, it was unsuitable for high-speed photography. By the infrared thermography which can buffer photography data efficiently continually, high-speed photography of 3,000 fps is enabled in 320X240 pixels and 47,000 fps in64X48 pixels by windowing mode. The heat generation of specimen phenomenon is used for the monitoring of the start point of the destruction and the thermometry of combustion gases and monitoring temperature and spectrum analysis.

はじめに

 赤外線サーモグラフィでは、一回あたりの撮影に伴うインテグレーション・タイムが長いために高速撮影には不向きであった。ここでは撮影データを連続的に効率良くバッファできる高速撮影が可能な赤外線カメラにより、320X240 画素で 3000fps, 128X100 画素で 17,000fps, 64X48 画素で47,000fpsが可能な冷却型高速赤外線カメラによる高速現象の可視化事例を紹介する。高速赤外線カメラでは破壊の起点となる温度上昇個所の検出や、高温ガスの流れを可視化することができ、エアバックの展開試験、衝突破壊試験、燃焼解析、切削工具の温度モニタリング等で使用されている。ここでは、最新の赤外線カメラを使用した破壊現象の観察事例や、高速赤外線カメラによるアプリケーションを紹介する。

高速赤外線サーモグラフィ

 使用する高速赤外線カメラは InSb(インジウムアンチモン)赤外線検知素子で、320X256 画素、30 μmピッチで構成され、赤外線検知素子は電子冷却器ステアリングクーラーにより約-80Kまで冷却されている[Fig.1 参照]。高速カメラリンク接続により、赤外線画像はPC側に転送される。画像解析ソフトウエアにて、温度表示・温度解析が行われる。

 高速赤外線サーモグラフィとして 640×512 画素で 1,000 fps、320×240 画素で 3,000 fps のフレームレート)が可能になっている。画素をウィンドウイングすることで、更なる高速撮影が可能になり、実用上の画像としては 64×48 画素で 47,000 fps (温度帯域によって異なる)程度となっている。1秒間に撮影できるフレームレートと温度分解能の向上により、非常に短時間に発生する小さな温度変化が捉えられるようになっている。

Fig.1 : High-speed infrared thermography
Fig.1 : High-speed infrared thermography

観察事例

ディーゼルエンジンの燃焼試験

 Fig.2 にディーゼルエンジンの燃焼試験の様子を示す。エンジンのピストンに穴を開けて赤外線を透過するサファイアガラスを埋め込んでいる。ピストンの下には 45°の角度で金をコーティングした鏡を置いて、離れた位置に水平に置かれた赤外線サーモグラフィはエンジン・シリンダ内の燃焼状態を直接モニタリングできる。

 Fig.3 の右側の画像に示すように可視の高速カメラ画像では、燃焼によ って生じる光の短い時間しか画像化されない。Fig.3 の左側に示すように赤外線画像では燃料の噴射から燃焼後の二酸化炭素の排出までの長い時間の観察が可能である。

Fig.2: Combustion test of the diesel engine
Fig.2: Combustion test of the diesel engine

Fig.3: Comparing of the combustion images (Left: Infrared camera, Right: Visual camera)

Fig.3: Comparing of the combustion images
(Left: Infrared camera, Right: Visual camera)

 Fig.4 に示すように赤外線は波長によ ってスペクトルごとの分析が可能であり、それぞれ特定の赤外線波長だけを透過する赤外線バンドパスフィルタを使用することで、炎越し(TF),二酸化炭素(CO2),炭化水素(HCs),メタン(CH4)といった、それぞれの赤外線画像に分けて画像化(Fig.5)することができる。

 撮影は 26,000 fps の速度で、Fig.6 に時間経過に伴うエンジン・シリンダ内の画像を示す。シリンダ内に燃料が噴射されていく様子や、初期の段階ではメタンや炭化水素がシリンダ内に充填しているが、燃焼後は二酸化炭素に置き換わっていく様子が観察される。

Fig.4: Infrared wave length and special band pass filters for spectral analysis for each gases and materials
Fig.4: Infrared wave length and special band pass filters for spectral analysis for each gases and materials
Fig.5: Combustion images using each band pass filters
Fig.5: Combustion images using each band pass filters

Fig.6: Infrared images with the time for combustion examination progress

Fig.6: Infrared images with the time for combustion examination progress
エアーバッグの展開試験

 エアーバッグの展開試験の赤外線画像をFig.7 に示す。赤外線観測波長域 3~5μm の赤外線は、エアーバッグを包むナイロン基布を透過してエアーバッグ内のガスの流れを可視化できる。ガスの流れが可視化できれば、基布の折りたたみ方、仕切りの位置、ガスが抜けるための穴の位置や形状を適正化にするのに有効である。可視の高速カメラと併せて、高速赤外線サーモグラフィを使用することで破壊の起点、ガスの流れ、温度観察が可能である。ガスの温度を測定するには、ガスの濃度、成分、放射率に大きく依存するので、非常に難しい。

Fig7: Infrared image for combustion examination of an airbag
Fig.7: Infrared image for combustion examination of an airbag
複合材の衝突破断試験

 複合材の板の裏面から複合材にターゲットを衝突させた際の赤外線画像を示す[Fig.8 参照]。この画像は 6,000fps の速さで、複合材の破壊に伴う破壊の起点、破壊に伴う温度上昇が検出でき、複合材の破片が散乱していく状態が観察される。

Fig.8: Infrared image for braking test of the composite plate
Fig.8: Infrared image for braking test of the composite plate
ミーリング・カッターの切削加工点の温度測定

 128×64 画素で 12,000 fps のフレームレートで、ミーリング・カッターによる機械加工時(Fig.9 参照)の赤外線画像をFig.10 に示す。ミーリング・カッターは720 rpm の速度で回転しており、12,000 fps の撮影速度でカッターの切り込みによって変化するカッター先端の温度変化,切粉の形状や切粉の飛散状態をモニタリングすることができ、高速で移動する測定対象物でも画像が流れることが少なく撮影可能である。ミーリング・カッター先端の温度変化は 12,000 分の 1 秒でも大きく変化し、高速サーモグラフィでしか評価できない。ミーリング・カッターの温度表示をするためには、ミーリング・カッターの温度を実際の加工温度まで上昇させて放射率の補正係数を測定する必要がある。ここでは光沢のある素地のタングステンカーバイトとして放射率を 0.05 としている。

Fig.9: Milling machining process using Tungsten carbide tools
Fig.9: Milling machining process using Tungsten carbide tools
Fig.10: Infrared image for milling machining process with temperature scale
Fig.10: Infrared image for milling machining process with temperature scale

まとめ

 赤外線サーモグラフィの温度分解能の向上と低価格化によりニーズが格段に広まってきている。赤外線サーモグラフィの温度分解能と PC の演算能力の向上により、短時間に小さな温度変化を捉えることが可能となっている。高速赤外線サーモグラフィでは、今まで他の測定方法でしか対応できなかったものでも赤外線サーモグラフィによる評価が進んでいる。例えば、燃焼ガスのスペクトル分析や、エアーバッグのナイロン基布内のガスの流れの可視化、破壊起点の特定とい ったようなアプリケーションである。  ここでは高速赤外線サーモグラフィを使用した適応事例を示したが、今後も画像処理技術の向上により高速化、高画素化、高感度化が進展して赤外線サーモグラフィの市場が広がっていくことを期待する。

参考文献
  1. 矢尾板達也:ハイエンド冷却型赤外線カメラの適応事例:計測技術,578. Vol.44. No.4, P.1-5,2016.3
  2. 矢尾板達也:冷却型赤外線カメラの適応事例:検査技術, Vol.21. No.8, P.40-45,2016.8
  3. T Yaoita, F. Marcotte: Visualization of high-speed phenomena using high-speed infrared camera: ICHIP31, Nov. 7-10,2016.
  4. 矢尾板達也:赤外線サーモグラフィの動向と冷却型赤外線サーモグラフィの適応事例:計測技術, Vol.45. No.4, P.8-11,2017.3