赤外線応力測定におけるランダム位置補正ソフトの開発 Development of the Random Motion Compensation software in infrared stress measurement
株式会社 ケン・オートメーション 〇矢尾板達也、矢ケ崎文男 Ken Automation, Inc. Tatsuya Yaoita , Fumio Yagasaki
Keywords : Infrared stress measurement, Motion compensation, Random signal
Abstract :
As the non-contact stress measurement technique, the infrared stress measuring method by the thermo elasticity effect is performed from the dynamic load repeated by the specimen. If load is added to a specimen, it may be displaced greatly and it is necessary to perform motion compensation. By the conventional technique, parallel translation of the picture in two points of the maximum load point and the minimum load point of the specimen which moves by a sign waveform, was carried out.
Here, development of the random motion compensation software by the digital tracking technology developed newly is described.
緒言
本研究は、高性能赤外線カメラを使用して行われる赤外線応力測定では、疲労試験の際に被測定物に繰り返し掛けられる荷重から熱弾性効果によって被測定物の表面に発生する発熱量の温度変動を測定する。測定する際の被測定物の変位をランダム位置補正ソフトで補正する手法について述べる。
従来の赤外線応力手法における位置補正ソフトでは、サイン波形入力信号に基づく被測定物の最大荷重点と最小荷重点の2点の位置における画像をそれぞれ平均化し、最大荷重点の平均画像から最小荷重点の平均画像を引き算し、温度変動量の大きさとしていた。この手法では、疲労試験がサイン波形入力信号だけに限られ、低い加振周波数の疲労試験では長い測定時間を必要とし、外乱の温度変化の影響を受け易い問題があった。また、測定では最大荷重点と最小荷重点の画像しか使用されないため、2次元のフォーカル・プレーン・アレイの赤外線カメラでは、各画素の感度バラツキがノイズの要因となる。
ここでは、新しくデジタル・トラッキング技術処を利用し、撮影した赤外線画像のフィルムファイルを、一枚ずつ被測定物の移動変位に合わせて位置補正を行い、被測定物を固定したうえで被測定物の温度変動を時系列処理して、被測定物の表面に発生する熱弾性効果による発熱量の温度変動を測定することができるようにした。
赤外線サーモグラフィ
最新の赤外線カメラ技術である2次元フォーカル・プレーン・アレイの赤外線検知素子を採用している。(Fig1)320X256画素または640X512画素、観測波長域MWIRの赤外線検知素子(InSb)は、ステアリング・クーラー電子冷却器で冷却されており、1枚の赤外線画像における測定温度分解能(NETD)は30℃において0.02℃と、現在市販されている赤外線カメラとしてはトップレベルの温度分解能を有している。
赤外線応力測定では更に高い温度分解能が必要とされ、約2,000枚の画像を積算すると、温度分解能は0.001℃以上となる。
繰返し加重が掛けられた試験片の温度変動は、ロックイン方式(Fig2)とよばれる任意に設定した一定間隔のフレームレートに基づいて赤外線画像の取込みと演算を連続的に実施し、刻々と変動する温度変動量から最大温度差⊿Tを計算した画像を作成する。
赤外線応力測定
試験片に繰返し掛かる加重に伴って生じる熱弾性効果により、赤外線応力画像が解析される。Fig3にコネクティングロッドの引張・圧縮加重による時系列温度変動を示す。赤外線カメラで捉えられる温度変動量は主応力和の変動量と比例関係にあり、赤外線カメラで捉えられた温度変動量(⊿T)に各材料の熱弾性係数(Km)を掛けることで主応力和の変動量(MPa)として変換される。(Fig4)
赤外線応力画像における主応力和の変動量(⊿σ)は以下の計算式によって求められる。
⊿T=-Km ・ T ・ ⊿σ Formula(1)
⊿T : 温度変動量
Km : 熱弾性係数
T : 絶対温度
⊿σ : 主応力和の変動量
ロックイン方式による赤外線応力画像の測定は、試験機からの同期入力信号に基づいて試験片の熱弾性効果による温度変動だけを測定することができ、風などの外的要因による温度変化を排除している。ロックイン方式は、従来の赤外線応力測定装置はで設定が難しかった参照入力信号との位相合わせに関係なく、640X512または320X256の全ての画素において最大温度差⊿Tが計算される。
ランダム位置補正の開発
従来の位置補正ソフトではFig5に示すように、サイン波形で繰り返し荷重が掛かる被測定物に対して、最大加重点での画像を積算・平均したものと、最小加重点での画像を積算・平均したものを平行または変形移動させて、2枚の画像の間の引算を行い、温度差を主応力和の変動量に変換していた。
一方、新しく開発したランダム位置補正ソフトは以下の手順で行われる。(Fig6)
1)赤外線カメラによる連続画像撮影(Fig7).
2)応力測定箇所を抽出.
3)被測定物にベクトルを設定.
4)デジタル・トラッキング処理に依り、各画像毎の被測定物の移動量を捕捉.
5)被測定物を固定し、背景が移動する新しい画像ファイルの作成.(Fig8)
各画像の外に示されている黒い箇所がランダム位置補正によって補正された 箇所.6)被測定物の温度変動量から、被測定物の熱弾性係数を掛け合わせて赤外線応力画像を作成.(Fig9)
ランダム位置補正は、従来のサイン波形入力信号だけでなく、画像内の移動であればランダム加振や衝撃試験、回転体等の様々な挙動の温度変化を測定することが可能である。(Fig10)
また、衝撃的な試験で温度変化量が赤外線カメラの温度分解能以上の温度変化が発生するような試験であれば、リアルタイム計測が可能である。
まとめ
位置補正を行わない画像では、被測定物の移動に伴う温度変動がエッジ効果として、実際の被測定物内部に発生している温度変動より大きく示され、応力が発生している箇所と見誤ってしまうことがあるが、位置補正技術を使うことでエッジ効果を小さくすることができる。
赤外線カメラの温度分解能と画質が向上し小さな温度変化をとらえることが可能になり、画像処理としてデジタル・トラッキング技術の向上により、ランダム位置補正ソフトが開発された。ランダム位置補正ソフトを使用することにより、変位のある被測定物を静止体として捉えることができ、被測定物の挙動と温度変動を区別することができ、より小さな温度変動を評価できるようになった。
参考文献
- 矢尾板達也:高速高密度赤外線カメラの測定事例,映像情報インダストリアル,(2006年8月),日本工業出版
- 矢尾板達也:新しい赤外線カメラと応力測定,検査技術,(2004年2月),日本刊工業出版
- Pierre Bremond, Cedip Infrared Systems-France:High-speed stress measurement by Thermal Stress Analyzer on slam door and crash test.; Testing Expo 2004, 25,26 & 27 May 2004, Stuttgart Germany.
- 矢尾板達也:赤外線カメラの高速化と高密度化, 平成17年度第3回赤外線サーモグラフィによる非破壊評価特別委員会
- 矢尾板達也、矢ケ崎文男 ; 赤外線応力測定とランダム位置補正ソフトの開発、平成19年度秋季大会, (社)日本非破壊検査協会(2007年10月19日)
- 矢尾板達也、矢ケ崎文男 ; 赤外線応力測定とランダム位置補正ソフトの開発、第24回センシングフォーラム, (社)計測自動制御学 会計測部門(2007年10月25日)
- 矢尾板達也、矢ケ崎文男 ; 赤外線応力測定とランダム位置補正ソフトの開発、第39回応力・ひずみ測定と強度評価シンポジウム,(社)日本非破壊検査協会(2008年1月10日)
- 関連製品